いわゆるIT起業がブームになってからもう10~15年以上にもなるわけですが、最近では学生による起業や女性起業家の数も益々増え続けているといわれます。
そんななか、同時に「起業したいけれど、自分にそのスキルがあるかどうかわからない」
といった悩みをもつ起業家志望の人も増えています。また「そもそも起業に必要なスキルって何なんだろう?」といった基本的な疑問をもつ人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、起業家にとって必要なスキルとは何かについて考えてみましょう。起業家志望の人や、既に起業された方も参考にしてみてください。
【大前提】起業家について知ろう
起業家とは何か
いきなり遠回りだと思われるかもしれませんが、起業家に必要となるスキルを考えるうえで、何よりもまず「起業家とはどういう人間か?」ということを知らなければなりません。実はこの問いに答えるのは容易なことではなく、成功している経営者の人でも回答が千差万別だったりします。
あなたも「税理士とはどういう人か?」といった質問や「弁護士の仕事は?」と聞かれても答えに困ることはないでしょう。
しかし「起業家とは?」と聞かれると少し困ってしまうのではないでしょうか?
実は、これを知ることがとても重要で、これからビジネスを始めようとする人や、既に事業をしているほとんどの人が、自分自身が起業家であることを忘れてしまっているからです。実際、起業家としてビジネスをするというのは、どういうことなのかをよく理解しないまま仕事をしている人がほとんどだといわれているのです。
「起業」とは、あなたのアイディアをシステム化し、継続的な利益に変えていくことです。即ち、あなたの考えを構造化して「ビジネス」として成立するように育て上げるということなのです。起業家とは、その創始者として先陣をきって行動する人間です。ビジネスとはあなたの子供のようなものであり、そこで起こる全てのことに、あなた自身が全責任をもたなければなりません。
あなたの会社やビジネスをまるで自立した大人になるように育て、最終的には、あなたがいなくても「お客さんに価値を与えて利益を上げる」という行為を続けられるようにするわけです。ですが、それにはかなりの時間がかかるでしょう。
ですから、しっかりとした基礎を築き上げる必要があります。その基礎の基礎こそが、まずはあなたのビジネスを、あなた自身が誰よりも理解するということです。即ち、あなたが何を求め、そのビジネスによってどこに行こうとしているのかを明確にするということなのです。
何よりも明確さが重要
残念ながら、多くの中小零細企業のトップや個人事業主が、自分のビジネスを一歩上の視点からじっくりと考えるという行為を怠っています。
有り体に言えば、自分が今何をしているのか? 自ら定義した成功に至るためにはどうすればよいのか考え続けることを放棄しているか、忘れてしまっているのです。
それは日々の意思決定にも影響を及ぼし、それが最善の判断なのか、それを判断するにはどういった情報が必要か、あるいは今の自分が理解していることは何か、分かっていないことが何なのか、といったことを考えていないわけです。
明確さは、あなた自身が起業家として必要であると判断を下して、自ら努力して手に入れるものです。こういうと大げさに聞こえるかもしれませんが、あなたの意志によって明確にしようと決断しない限り、それらはどんどんあなたのなかで曖昧になっていきます。
あなたが起業した目的や、それによって得ようとしているもの、必要としていることなどが曖昧になってくると、あなたは自分のビジネスを徐々に誤った方向に進ませることになってしまいます。そして気が付けば、修正が不可能な事態に陥ってしまうのです。
ですから一つ上の視点に立って、あなたがそのビジネスをする理由や、それによってあなたが達成したい事などを明確にしましょう。それが「大前提」なのです。ビジネスをして儲けるために必要なスキルについて考える前に、まずはこういったことを自分なりに明らかにしておく必要があるのです。
起業家にとってのスキル
起業家としてビジネスをするのならば、まずは自分の求めているものやその達成方法を明確にする必要があります。
それを理解したうえで、自らのビジネス分野において必要なスキルを磨く必要があるのです。
ただし、そういった各々の事業に特徴的なスキルだけではなく、起業家として身に着けなければならないスキルも存在します。むしろ、そういったスキルが起業してビジネスを成功させようと考える人にとって重要なものです。即ち、ビジネスを始めようと考えている業界に特有のスキルではなく、もっと全般的なものということです。
以下では、起業家としてどのような資質を伸ばし、どういった事を追求すべきなのかを述べたいと思います。当然、はじめから全ての点が完璧という人などいません。
しかし、それはあなたのビジネスの成功に大きく影響することなのです。
特に、あらゆる起業家に共通して身に着けなければならないスキルが3つあります。それは大きく分けて「ビジネスを設計するスキル」「優先順位をつけるスキル」「セールススキル」の3つです。
ビジネスを設計するスキル
あなたのビジネスを俯瞰してみる
まずは、あなたのビジネスを「設計するスキル」です。これは言い換えれば「集客をするスキル」ともいえます。
些か極端なことをいえば、あなたの提供しているモノやサービスを買いたいというお客さんを継続的に集めることができるならば、本来は会社という形態も屋号すらもいらないのです。あなたの利益の源泉は「お客さん」にあります。
その「お客さん」を効率的に集め、その後長い期間にわたってリピートしてもらう「仕組みを設計」することこそがビジネスの本質だといえるでしょう。見込み客が欲しているものを提供して、それによってあなた自身によい人生をもたらすビジネスを設計するのです。
しかし残念なことに、多くの人はビジネスを「設計」するという視点をもっていません。これは言い換えれば、いかにして見込み客を集めるのかが曖昧なまま、自分の時間と労働力を他のビジネス要素につぎ込んでしまっているということです。
ビジネスを設計するということは、あなたのビジネスの成功にとって決定的に重要なものであるといえます。
正しくビジネスを設計しなければ、あなたの他の仕事は全く意味のないものになりかねません。何時間働いても、たとえ身体を壊して働き続けても収入に結びつかないことになるのです。
たとえ最新の意匠を施したウェブサイトを構築しても、他にはない高品質な製品を開発しようとも、お客さんを集められなければ、これらは意味のない作業となってしまいます。あなたにとっては、ただのフラストレーションの原因にしかならないのです。
溢れるノウハウコレクター
巷には「~して100万円稼いだ」とか「年収1億円以上になった」といった、すぐにお金を稼げるテクニックについて解説したものが多くあります。特にネットの世界では、新しいマーケティングノウハウの説明を商品化した、いわゆる「情報商材」だらけといっても過言ではありません。
そういった「儲かる方法」を常に探し回っている「ノウハウコレクター」と呼ばれる人々のなかには、自分のビジネスを根本的に設計することが現実的ではないと考える人も少なくありません。
しかしこういった人々は、儲かりそうな商材を知るとすぐに飛びついてしまい、今まで学んできたことを忘れてしまうか、頭の隅に追いやってしまうのです。そして「最新の」とか「流行の」といったノウハウを常に学び続けること自体が目的化してしまいます。
その結果、いつまで経っても、安定した収益の上がるビジネスを構築することができません。そして結果が出ないものだから、さらにノウハウを探し続けるという悪循環に陥ってしまっているのです。
近視眼的になってはいけない
しかし、これは多くの起業家が陥ってしまうパターンでもあります。
大半の起業家は、日々本当に忙しく働いています。あなたもきっとそうだと思います。人によっては心身のバランスが崩れてしまうぐらい仕事に没頭しているのです。
しかしビジネスを正しく設計していないがために、思い通りの結果を得ることができないでいるのです。間違った方向を目指して必死に走っているといってもいいでしょう。
小手先のノウハウに惑わされることなく、あなたは自分のビジネスを正しく設計しなければなりません。起業の成功は、設計によってもたらされます。
それによって、あなたの作業を減らしつつ、収益を上げ続けることが可能になります。成功の確率を飛躍的に高めることができるのです。
そのために、あなたのビジネスに関するそれぞれの要素について腰を据えて考えることが重要です。どうすればあなたの理想とするお客さんに商品・サービスの価値を理解してもらえるか、いかにしてお客さんを集めるか、
無論、一度設計すれば上手くいくとは限りません。むしろ、いずれかの要素に欠陥や勘違いなどがあって失敗することの方が多いでしょう。
しかし、その失敗の原因を冷静に分析し、ブラッシュアップしていくことが必要なのです。
それはあなたが起業家として最も優先しなければならない仕事であり、実践し続けることで磨くべきスキルでもあるのです。
優先順位をつけるスキル
ほんの僅かな選択が全体に大きく影響する
次に「優先順位をつけるスキル」です。これは自分なりの方法を編み出している人もいれば、既に成功している人のやり方を参考にしている人もいるでしょう。
当然ながら、起業家は自分のビジネスに全責任を追わなければなりません。誰かに助けてもらうことなどできないのです。ですから、自分のビジネスにとって「何が重要なのか?」をしっかりと見極めなければなりません。
事実として、ビジネスの成功は、トップが下すほんの「僅か」な判断にかかっているといわれます。どの市場にフォーカスするのか、商品コンセプトをどうするか、リピートを持続させる施策をどうするか…そういった判断にかかっているのです。
起業を志すような人はたいてい自分の起業したい分野に関するスキルを勉強しているものです。当然それも大事なことですが、ビジネス全体に最も影響するのは、あなたが今現在置かれているビジネス環境と選択肢をどれだけ詳細に把握しているかということです。
前項で述べた「明確さ」が重要であるという提言は、ここに繋がります。あなた自身のビジネスの全体像を常に明らかにしておきましょう。少なくとも、そのように努めなければならないのです。
そのうえで、あなたはやるべき少数かつ重要な仕事の選別をしていかなければなりません。優先順位を見極める力を身につけなければならないのです。
重要な「20%」に集中するために…
経済学の世界で「パレートの法則」という考え方がありますが、これはあらゆるビジネスにも適用できる非常に重要な考え方です。
ごく簡単に説明すると、あなたのビジネスのパフォーマンスの80%を決定するのは、あなたやあなた雇ったスタッフのこなす仕事のたった20%から生み出されるというものです。
しかし残念ながら、数多くの起業家が自分にとって重要な20%の仕事が何であるかを明確に分かっておらず、そのために重要度の低い作業に忙殺されてしまっているのです。目が回るほど忙しいけれど全く儲からないと悩む起業家のほとんどが、そのようなビジネススタイルになってしまっているのが現状です。
ですから繰り返しになりますが、あなたが今どういう状態にあるにせよ、自分のビジネスにとって何が重要であり、その仕事をいかに効率的にこなしていくかを考えなければなりません。優先順位をつけて実行するスキルを身につけなければならないのです。
特にビジネスの創業期はあらゆる事柄を自分でこなさなければならないでしょう。それでもビジネスが成長するにつれ、優先度の低い仕事はあなたの雇ったスタッフやパートナーに任せられるようにならなければいけません。そして、あなたはビジネス全体にとって重要度の高い仕事に集中しなければならないのです。
言い換えれば、あなたがビジネスにとって重要な20%をこなすための時間を作り出す必要があるのです。瑣末な仕事に押しつぶされないためにも、今のうちから自分のビジネスにとって何が重要なのかを明確にし、優先順位をつける力を伸ばしましょう。
まずは自分なりのやり方で構いません。むしろ、自分に合ったやり方を模索して、それを改善していくのがベストだと思います。
セールススキル
商売の基本は販売
あらゆるビジネスの基本は「販売(セールス)」にあります。本来、商売というものは売り手と買い手が存在すれば成立するものであり、小難しい経営理論やマーケティング戦略は、後付けで提唱されてきたものです。
当然、ビジネスを成功させるためには、こういった考え方が必須ですが、どれだけ優秀を戦略を立てたところで、あなた自身が自分の商品・サービスを売ることができなければ全く意味がないのです。
よく「自分の好きなことがやりたい」という起業家志望者がいますが、それは少し認識を改めなければなりません。
なぜならば、創業当初は、ビジネスに関するあらゆる行為をあなた自身がやらなければならないからです。
仮にあなたが営業が苦手な起業家だったとしても、ビジネスの基本が「お客さんにモノ・サービスを買ってもらうこと」である限り、セールスのあらゆる側面から逃げたり、他人任せにすることはできないのです。あなたの製品がいくら素晴らしいものであっても、お客さんに買ってもらえなければ失敗なのですから。
セールスと品質
特に「販売に対する全責任」と「品質に関する責任」を負うことは、起業家にとって大事なことです。当然、あなたの雇ったスタッフに仕事を任せることも多いと思いますが、最終的にはあなたが責任をとらなければなりません。
それだけに、これらの関するスキルは優先度が高めであるといえるでしょう。むしろ、創業当初はあなた自身があらゆるビジネス要素を担わなければならないでしょうから、積極的にスキルを高めていく必要があります。
特に販売に関しては、外注スタッフなどに丸投げというわけにはいきません。無名な企業や個人事業主が、自らの顔を見せないところでモノを売ろうと考えても、お客さんに買ってもらうことは難しいのです。
たとえ営業が嫌いという起業家であっても、ここから逃げ出すことはできません。何度も繰り返しますが、販売(セールス)はビジネスの基本です。自分なりのやり方を確立するまでは、既に確立された効果のあるノウハウなども積極的に学ぶ必要があるでしょう。
「スキル表」制作のススメ
必要となる細々としたスキルは一覧表にして整理を
これまで起業家にとって最も大事なのは「自分のビジネスにとって何が重要なのかを明らかにすること」、そして「それに優先順位をつけること」であると述べてきました。無論、それを適切に実行していく行動力はそれらの大前提として必要となります。
ただし、それ以外にも仕事上の細々としたスキルが必要となることもあるでしょう。
そこでおススメなのが、自分のビジネスの成長段階に応じた「スキル表」を作成することです。
スキル表とは、あなたの設計したビジネスを成功させるために、あなた自身が手に入れなければならないスキルを各要素ごとに一覧表にしたものです。これはあなた自身が作成しなければなりません。
たとえばマネジメントやオペレーションなどビジネス全体を維持するためのスキルや、商品開発やファイナンスに関するものなど、それぞれのビジネスの機能ごとに、現段階であなたが必要とするスキルを一覧にし、俯瞰してみるのです。
それによって学ぶべきスキルについての優先順位をつけることができますし、あなた自身の現状も客観的に認識することができるでしょう。
特に創業初期段階の起業家は、ほとんど全てのビジネス要素を自らの手でやらなければならないわけですから、自分自身とビジネス全体の状況を知ることができますし、どの要素をスタッフに任せればよいか、外注すべきところはどこかが一目瞭然となります。
スキルコレクターになってはいけない
既に「ノウハウコレクター」に関しては説明をしましたが、多くの起業志望の人達が犯しがちな失敗に、全てのことについて準備万端にしてから始めようとするあまり、準備だけでエネルギーを使い果たしてしまうことがあります。
ただでさえ現代は様々な情報に溢れており、情報中毒者ともいえる人々が蔓延してしまっているのです。
あなたが学ぶべきスキルは無数にあるかもしれませんが、しっかりと優先順位をつけなければならず、重要度の低いものは無視しなければならないこともあります。
なかには「ゼネラリスト」を標榜している起業家もいるかもしれませんが、あらゆるビジネス要素で必要となるスキルを身につけることは絶対に不可能です。まだ創業前の人は、この現実を直視しなければなりません。
あなたはより自分の得意な要素に特化しなければならないのです。
繰り返しますが、ビジネスで重要なのは優先順位をつけることであり、より利益に繋がる重要な仕事に特化することです。常に「重要な20%とは何か?」と自分に問いかけながら、今のあなたに本当に必要なスキルを選択し、しっかりと学んでいって下さい。
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