今回は、自己啓発分野において今や常連ともいえる「プラス思考」に関するものです。
私たちは何か失敗をしてしまったり、憂鬱な気分になったりしたときに「プラス思考で行きましょう」などと励まされることも多いです。それだけこの言葉は多くの人に使われており、誰にでも馴染みのある言葉になっているはずです。
しかし、誰でも気軽に口にするこの「プラス思考」ですが、多くの人がその方法について誤った認識をもっており、そのために思うような効果を得られずに悩んでいるのが実態なのではないでしょうか?
その証拠に、書店に行けばそういった思考法に関する書籍が数え切れないほどあり、毎月のように出版されています。新書が尽きることがないということは、常に悩んでいる人が存在することの証左といえるでしょう。多くの人が、今現在もプラス思考・ポジティブ思考について沢山の悩みをもっているのです。
そこで本記事では「本当に効果のある」プラス思考の方法を模索してみたいと思います。
これまでのプラス思考法には問題がある!?
そもそもプラス思考とは
「プラス思考」とは、簡単に言えば私たちが周囲の出来事や事象に対して行っている「意味付け」を自分にとってプラスの方向にもっていこうとするものです。これは皆さんご存知だと思います。自分なりのプラス思考に関する方法論をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
たとえば通勤電車が遅れてきたときに、通常ならば「会社に遅刻するかもしれない」とか「スケジュールが乱れる」といったふうに思うところを、プラス思考を意識していれば「短い時間だけれど、来月の資格試験の勉強をする時間ができた」といった考え方の転換をはかることができます。
このように、これまで培ってきた自分なりの意味づけをプラスの方向に転換しようと試みるのが「プラス思考」あるいは「ポジティブシンキング」ということになりますが、実はこの考え方や方法論には様々な問題が指摘されています。
実際にこれがうまくいく場面もありますが、プラス思考の多くは自分自身のこれまでの「意味づけ」を強制的に変えてしまおうとすることになるので、当然失敗してしまうこともあるのです。
「意味づけ」とプラス思考
「意味づけ」とは、私たちが脳のもつ機能によって周囲の出来事を認知したものに対する、あなたなりの「解釈」ということです。つまり周囲の事象に、あなた自身が「意味」を与えているわけです。
その意味づけが、過去の失敗によるトラウマや不快な記憶などによって、マイナスの方向にバイアスがかかってしまったり、あるいは偏った観念に支配されたものだったとき、私たちは出来事に対する正確な意味づけができなくなってしまいます。
その結果、たとえ自分にとって中立的な出来事であってもマイナスに捉えてしまい、本来は必要のない精神的不快感に襲われてしまうことがあるのです。
こういった偏った解釈が私たちのなかに蓄積し続けると、やがてその解釈が自分のなかで当たり前のものとなってしまいます。
そして、そのような考え方が継続して自分自身に精神的な不快感を与え続けることになります。そのきっかけとなった出来事と似通った事象が発生するたびに、私たちは同じような不快感を感じることになるのです。
解釈の強制的な変更は、精神的な疲労を伴う
プラス思考はそのように時間をかけて堆積してきた固定観念や考え方を、強制的にプラスの方向に転じさせるものです。
しかし既に述べたように、長年自分のなかで凝り固まってしまった考え方に新しい解釈を加えるのは、なかなか難しいでしょう。
それにたとえ中立的な事象であっても、自分にとって有利な出来事であるかのように無理矢理解釈を変更するわけですので、徐々に弊害が出てくるのです。
特に長い時間をかけて自分のなかに溜まってきた意味づけというものは、自身の潜在意識にしっかりと刻み込まれています。
それを別の解釈に書き換えるにはそれなりの時間とエネルギーがかかわるけですが、自分なりの解釈をその都度プラスの方向に書き換える作業が必要となるわけですから、身の回りで起こる出来事のほとんどにこのアプローチを適用してしまえば、精神的に多大なエネルギーを消費することになるのです。
そして最終的には「エネルギー切れ」を起こしてしまい、その反動が逆に自分自身へと返ってきてしまいます。
簡単に言い換えれば、何か新しい意味づけが必要となるたびに自分に嘘をつき続けることになるので、精神的に疲れ切ってしまうともいえます。
この点から、プラス思考をし続けることによって精神的に疲労していってしまうというデメリットが指摘されるようになってきたといえるでしょう。
プラス思考に至る心理的プロセス
最新の心理学におけるプラス思考の捉え方
事実、行動心理学やスポーツ心理学の世界では「プラス思考には限界があるのでは?」という、これまで盲目的によしとされてきたプラス思考に対する疑問が次々に提示され始めました。
これは、人間の「心理的不快感」に対する対策にはどのようなものがあるかを考えながら理解すればよいと思います。
私たちは、何か自分にとって不快な出来事や刺激を与えられると、それに対して何からの対策をとろうとします。一般的にはそれは段階的なものであるといわれ、精神的レベルの低いものから徐々に高いものへと移っていきます。
まずは、何か不快な出来事の元凶を直接的に排除しようとしたり、対象の「過失」や「落ち度」を責めることで溜飲を下げようとする方法です。場合によっては明らかに中立的な出来事であるにも拘(かかわ)らず、こういったアプローチで自分を守ろうとする人もいます。
皆さんの周囲にも、どんな事でも「他人のせい」にしてしまう人が少なからずいるのではないでしょうか?残念ながら、そういう人々は最も低いレベルの反応に拘泥してしまっているのです。
内部的アプローチは有効か
次に、私たちが試みるアプローチは、外部的な要因ではなく自分自身に何らかの変化を起こそうとするものです。
たとえば、イライラしているときや憂鬱なときに「寝て忘れよう」とか「ご飯でも食べよう」というように、気分転換をはかることで不快な感情を払拭しようとします。
これは一般的には最もよく用いられている対策法でしょうし、それなりに効果が実証されているといえるでしょう。しかし、いつでもどこでもこのやり方が使えるかといえば、そうではありません。
大事な仕事中にいきなり旅行に行くことはできないでしょうし、外に出て気分を落ち着けたいから電車を停めろ、などと無茶を言うわけにはいきません。
むしろ状況が許さないということの方が多いと思います。
そこで出てくるのが「不快な刺激や出来事そのものを考えない」という方法です。有り体に言えば、その出来事を自分のなかで「なかったことにする」わけです。
「あんな奴のことは忘れよう」とか「もうあんなこと気にしないでおこう」といったふうに、自分のなかからその出来事を抹消しようとするやり方です。
友人に対してそういったアドバイスをする人も大勢いるでしょう。他人にそういう助言をするということは、自分が同じ状況に陥ったときも、同じように考えるということです。
それだけこのアプローチは有名であり、市民権を得ている方法といってもいいかもしれません。「嫌なことをは忘れよう」というのは、誰でも思いつくストレス対策法といえます。
しかし残念ながら、この方法もなかなか上手くいきません。
というのも、物事を「全く考えないようにする」というのは、人間には不可能だからです。
意識の上で抹消しようとしても、いわゆる潜在意識はそういった出来事をしっかりと記録していますし、考えないようにすればするほどに、その出来事を意識してしまうことになります。そしてその記憶が何度も「反芻」されることになり、より深く記憶に刻まれることになるからです。
結局は「プラス思考」に行き着くが・・・
そして最終的に、私たちは本記事のテーマである「プラス思考」に行き着くわけです。
言い換えれば「意味づけの転化」であり、多くの人がこのアプローチこそが最も有効であると考えているでしょう。書店に行けば、こういったやり方に関する本が山ほどあります。
しかし既に述べたように、過度なプラス思考は精神的な疲労をもたらしてしまいます。何でも自分の良いように考えること自体に限界があるのです。あなたも経験があるのではないでしょうか?
あなたの周囲で起こるありとあらゆる出来事をプラスに考え「なければならない」というのは、精神的にかなり疲れてしまうでしょう。場合によっては、そのような考え方をすること自体が苦痛になってしまうこともあります。
実際、極端なプラス思考を社員全体に社訓のようなカタチで会社全体に行き渡らせているような企業は、離職率が非常に高いといわれています。無論、全ての会社がそうだとはいいませんが、いわゆる「ブラック企業」と囁かれるような企業に、こういった社風が多いのは事実のようです。
こういった企業では、行き過ぎたプラス思考のために精神的に疲弊しきってしまった人からどんどん辞めていくことになるわけです。彼らは頭ではプラス思考の必要性を感じているわけですが、身体がついて来なくなっている状態なのです。
それでは、私たちにとって本当に効果のあるストレス対策法とはどのようなものでしょうか? ポジティブ思考は本当に効果がないのでしょうか? それとも方法が間違っているだけなのでしょうか?
真のプラス思考には「大前提」がある
あらゆる状況を従来のやり方で解決することはできない
私たちは日々、色々な人間と接することになりますし、多少嫌な仕事もやらなくてはならないことがあります。しかし、どのような人や仕事でも無条件に好きになる方法などありませんし、そのように意識を変化させるためのトレーニングなども存在しません。あらゆる事象をプラス思考で捉えること自体に無理があるのです。
まず私たちが知るべきなのは、常日頃から私たち自身が、周囲の出来事に対して様々な意味づけをしており、それに振り回されているといっても過言ではないということです。
それゆえに他人とのコミュニケーションで傷ついたり、仕事で悩みを抱えたりしてしまっているわけです。
それをこれまで述べてきたような対策方法を段階的に試し、結局は上手くいかずに困ってしまうことになります。無論、これまでのプラス思考のやり方で上手くいく場合もありますので、それはそれでよいでしょう。しかし、あらゆる不快な出来事をこれまでのやり方で処理することはできないのです。
いったん「受け入れる」前に「意味づけ」をしてはいけない
最新の心理学の研究では、重要なのは「気づき」であるといわれています。
ごくありきたりな方法だと思われるかもしれませんが、多くのプラス思考を信奉する人々は、現実に自分たちが「どう感じているのか」について考えずに、盲目的に意味づけを行ってしまっています。
自分がどのような状態にあるのかを正確に理解しないまま、目先の解決策だけをひたすら模索していたのが、これまでの多くのプラス思考法だったといます。
その結果、意志と精神のバランスが崩れてしまい、問題を解決するためのエネルギーが浪費されてしまうことになります。脳が混乱してしまっているのです。
私たちは、まず自分の精神が揺らいでいたり、その出来事に捉われてしまっていることに気が付く必要があります。
それを抜きにして、無理にポジティブな意味づけをしてみたり、気が付かないふりをしてみたりしたところで、プラス思考の効果は著しく弱くなってしまうか、時には逆効果になってしまうこともあるのです。
まずは自らの「心の状態」に気づくことが大前提であるといえます。動揺していようが、混乱していようが、まずはその状態を自分で認めなければなりません。自分に嘘をつかないことです。
「気づく」ことで脳が正しい解決法を模索し始める
単純なようですが、実際、この「気づき」だけで相当な効果があるとされています。なぜならば、脳がその状態を認識することで、なんとか不快な状況を改善しようと働き始めるからです。
問題解決の秘訣は「解決策」に脳をフォーカスさせることです。これまでのポジティブ思考法は、いわば脳という思考の土台が無視されていたので、心の状態をうまくコントロールできなかったともいえるのです。脳が混乱をきたしたまま解決策を模索したところで、正しい方策など出てこないわけです。まず正しい情報を送らなければ、脳は正しく動いてはくれないのです。
逆に脳が正常に機能した上で行われる正しい思考は、心の状態を変化させ、物事に対する正しい解釈を与えるように促してくれます。それによって外部状況がどのようなものであれ、自分にとってプラスの解決策を考えるようになります。
従来のプラス思考法は、不快な感情を封じ込めることに躍起になるあまり、全ての思考の源である「脳の機能」というものがおろそかにされていたともいえるのです。
ポジティブ思考を継続させるには、まずは自分自身の心の状態を脳に正しく認識させる必要があります。それによって、真の意味で「自分を切り替える」ことができるようになるわけです。
繰り返すことが重要
しかし、それでも初めからうまくいくとは限りません。当たり前のことですが、脳にこの「切り替え」の練習を繰り返しさせる必要があります。即ち、落ち着いて「気づき」を繰り返すことで、脳に正しい思考ができるように促していくわけです。
その結果、あなたがどのような状態でも、その時点でのあるがままの自分を受け入れることができ、自分の心の状態を切り替えることができるようになってきます。
まずは「脳が正しく機能できる状態をつくる」という視点が何より重要です。あなたにとってなにか不快な現象が起こったとしても、そのことを否定してはいけません。そして、一旦ありのままの心の状態を受け入れるのです。それこそが正しいプラス思考に至る道であると考えましょう。
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